そもそもRATとは?
まずは、本家RATを電子的分野より検証してみたいと思います。
その第一歩として「RAT」で使われているICについて少し説明したいと思います。このICは元々音などとは全く関係のない、専門的に言うと「LOW INPUT BIAS CURRENT」「LOW OFFSET CURRENT」の必要な回路用ICで、どちらかと言えば測定器等の特殊用途の部類に入るICです。
ですから音の世界で重要視される周波数特性などの観点から言えば通常一般的にはNGな部類に入ります。ただひたすらトランジスターでの「LOW INPUT BIAS CURRENT」「LOW OFFSET CURRENT」を求めたIC、それがRATに使われている「LM308」と言うICです。
もちろん、問題は音が良いかどうかですから、この辺りが楽器、音楽の世界というものは面白いものです。
さてもう少し電子的分析を進めます。では、そんな音とは無縁のICを音の高増幅回路に使うとどうなるかと言いますと、高域がトロくなりモコモコな音で聞くに耐えられないと言う事になる傾向にあります。
しかし、それでも使いたい場合はどんな事をするかと言いますと、出ない高域を無理矢理持ち上げる回路を取り付けてやります。そうしますとノイズは別にして見かけ上は高音が出てきます。
そんな回路で作った音をダイオードで波形の上と下をバッサリ切り、切るだけだとギラギラな音になるのでちょっとだけ色付けし、後はバッファー・アンプと呼ばれる回路を通し、Level POTを経て出力しているのがこの「RAT」なのです。現在のRATのICは「LM308」から「OP07」に変更してあります。こちらも同様LOW OFFSET用なので非常に似たICです。特性も測ってみましたが同じ様な特性でした。
これだけを考えますと他のエフェクターと全く変わらないと言いますか、むしろ周波数特性に無理が有る分だけ見劣りするエフェクターの様に思えてきます。ですがこのIC、音の事など全く考えて作られていないおかげで高Gainで音響回路に使うと結果的に600Hz付近が盛り上がって高域がガクンと落ちる変な特性を持ってしまうのです。
「RAT」の肝心な部分は・・・
落ちた高域については、先ほどの説明の通り持ち上げましたので他のディストーション・エフェクターと変わらぬ程度に出る様になります。
そして問題は盛り上がった600Hz付近と言う事になりますね。偶然?持ち上がったこの周波数帯がギターリストが盛んに表現の対象とする「音の太さ」を感ずる部分となり、逆に悪い特性が功を奏して「太い音のディストーション」と言う事で一躍有名になったと言うのが電子的分野から見た仮説です。勿論ジェフ・ベックが使ったからと言うのは言うまでも有りませんが...
そんな特性のICで作られているのが【RAT】なのです。ですから【RAT】はGainを上げないと600Hz付近が膨らんで来ないので電子的には特徴の無いディストーションと言う事になりますね。ジョンスコのようにあえてそういうダークなサウンドを好んで使用したケースもあります。
さて、次に別な視点の仮説として今度は製造する会社つまり「Proco」の立場を少し考えてみましょう。
作る方は出来る限り製造原価のかからない安く良い物をと言うのがどこの会社でも主眼が置かれているところです。同じ物を大量に使用すればそれだけその単価は安くなり少なければ高くなります。
「RAT」も同じ様な考え方で作られている様でその象徴的なのがPOTです。本来ならGain、Tone、Level の各POTは回路用途が異なる為、違う値のPOTを使うのが一般的なのですが、この「RAT」では全て100KAカーブが使用されています。推測ですが、それがあってこそ特徴的なあの様なTONEの効き方=フィルターという形にしたと思われます、つまり必要に迫られてと言うところでしょうか?
またオールドRATはLevel-POTもそのままなので出力インピーダンスが最大50KΩまでにも跳ね上がります。これも電子的に見たらある意味今で言えば異常な値です。
一般的にバッファー・アンプ出力で保護抵抗込みでも1K~5K位が一般的なところなので、その大きさの違いが解るかと思います。ちなみにLED付RATからはマズイと思ったのかPOTと抵抗を並列に入れて10K以下に改善してあります。
そんな生産面の思惑と開発の思惑2つが重なって出来たのが「RAT」なんではないでしょうか?こんな小さな箱ですが違った方向から見ると面白いですね。
Dr.Lake HYPER Crunch'n RAT とは?
そんないろいろな変遷を通っても歪シーンにサバイブし続ける偉大な【Proco RAT】をベースに、多彩で上質なサウンドまでカバーできるようにしたのが【Hyper Crunch'n RAT mod.】です。
まずはRATの音抜けを改善、そして歪具合をクランチサウンドまでカバーするように改造。更にスイッチ切り替えにて、従来のRATサウンド~切れの良いあくまで太いクランチサウンド~クリーンブーストまで使える3パターン出来るようにしました。一番ポイントのクランチ具合は、内部に可変抵抗を入れてありますので、微調整も可能です。もちろんトゥルーバイパスですしね。
昨今かなり高価なブティック系とも言われるブースター・オーバードライブやクランチ・オーバードライブが人気ですが、それらの半額程度のリーズナブルな価格で機能は完全に網羅します!!
この改造はUSA製の高価なモディファイRATにも、似たようなモノを見受けますが、その改造の仕方ですとGain-POTと内部に取り付けた半固定抵抗の設定いかんで「OP07」がよくない状態に置かれるので、【Hyper Crunch'n RAT mod.】では誰が使っても壊れない様に設計してあります。
ブーストモードでは、2ヴォリュームタイプのゲインブースト~内部IC自体に歪みをかけた軽いクランチまで調節可能です。
*個人の主観に基づく仮説も含まれます。
* RATはProcoの製品です。